男子フィギュア町田樹選手の大躍進とゼロ回転ジャンプのからくり
2013年11月19日初掲出、
激戦の男子スケート界で急浮上した町田樹選手の特集をニュースで取り上げていた。
その練習風景は、非常に地味な基礎練習を1人淡々と取り組む姿であった。
しかし、この練習には今回の町田樹選手の、大変身とも言える秘密があるのです。
例えば、その1つは、フィギアという競技名の語源に関係している古来の競技(名前は失念したが)、「ゆっくり、ゆっくりと大きな八の字の円を正確にトレースする」という練習をなんと1時間も続けることであった。
曰く「どの関節をどれだけ動かすと、どのような結果になるのか」ということを集中して観ながら、つまり細かいフィードバックを取りながらの基礎練習ということでした。
その練習だけを、ひたすら1時間連続で続けていた。
ゆっくりと滑ると、重力を上手く見るという訓練になります。
また、高度な身体意識を獲得するためには、身体への深い理解が必要になるのです。
その上での、フィードバックを丹念にとりながらの基礎練習こそが、パフォーマンスをあげていくことに必要なのだと言えるでしょう。
また、もうひとつの練習は、4回転ジャンプ等を強化するのための練習に、ゼロ回転ジャンプを繰り返すというものです。
ゼロ回転ジャンプとは、後ろ向きで飛び、そのまま回転せずに、後ろ向きで着氷するという練習です。
何だか説明を受けないと、傍目には、上手く飛べなかった失敗ジャンプの様にしか見えない。
このゼロ回転ジャンプの練習の説明を本人は
「大きな大会の場面になると、異常な緊張感の中で演技をしなければならない。
この時に、今までのように、ジャンプだけで5項目ものチェック項目を意識に上げていたのでは、追いつかない。」
そこで
「ゼロ回転ジャンプの練習をすることで、ジャンプに入るタイミングと、着氷の2項目だけにチェック項目を減らした。」
のだそうだ。
これは、フレームを決めて、そのスタートと終わりのみを意識することで、フレーム内のその他のシークエンスをノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンのいうSystem1(直感)に任せると言うことに他ならない。
人間の脳は、フレームで理解をするのです。
もうひとつ抽象度を上げて見れば、八の字をトレースする練習も、ゼロ回転ジャンプの練習の原理は同じである。
System2(推論)による合理的な知識・情報に基づいて、合理的な反復練習で、情報をインストールした結果なおである。
アンカーとトリガーを結びつけて、まとまった行動フレームを自動化しているというと分かるだろうか?
歌唱力がアップするスーパーボイスの技術開発も、その他の気功技術開発も基本は同じである。
気功技術の場合は、行動のシークエンス=フレームといういいかたよりも、ゲシュタルトという言い方のほうがしっくり来るだろうか。
このパラダイム転換によって、町田樹選手は、自己のベスト記録を20ー30ポイント以上更新して、歴代5位のスコアを叩き出したそうだ。
ちなみに、今季彼はそれまでの練習の拠点を海外から日本へと移している。
練習拠点を変えることは、一般的には、かなりのリスクと捉えられがちである。
しかし、今回のケースの場合は、いわゆる過去(現状=ステータスクオ)のホメオスタシスが広がる縁起(環境ネットワーク)空間=情報空間からのリフレーミングとして作用して、
一気に臨場感空間或いは、自己イメージを書き換えられた要因として上手に作用したのだと考えられます。
強烈なゴールを持った個人が(結果としてかも知れませんが)認知科学に基づき、抽象度を上げて合理的に、一見常識を越えた成果を上げた好例ではないだろうか。
もうひとつ、アスリートとして特筆すべき彼の特徴は、文学や哲学的な知識を、普段からしっかりと学習しているところである。
TVでのインタビューでも、開口一番今回の彼の採用したテーマである「エデンの東」の原作小説の方の著者であるジョン・スタインベックに敬意を表しますと言う一言((正確ではありませんが)から入っています。
つまり彼は、スポーツアスリートと言う枠を越えた、表現者だと言うことだ。
スケートは彼にとっては、そのエデンの東の臨場感空間なり、彼自身の奥にあるフィロソフィーなりを表現する道具に過ぎないと言うパラダイムに立っていると言うことだ。
スポーツの世界でも、「抽象度の高い世界から、現実の物理空間にその写像を写し出していく」という認知科学のパラダイムが確実に広がっていることを感じました。
まさ(^^ゞ
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